昔、ひょんなことからインドに滞在する時期がありました。インドに特別な興味があったわけではなく、偶然の流れで到着したのです。情報もないまま、夜に到着した私は、文化的な違いに大きなインパクトを受け、「やばい所に来ちゃったな」と正直な気持ちを抱きました。
腰を落ち着けた場所は、ヨガの聖地リシケシ。俗物な自分がヨガの里に滞在することに違和感を覚えつつも、時間があり余る毎日を過ごしました。観光でもなく、インド文化を知るためでもなく、ただ過ごしていると、自然と本を手に取り始めました。
本屋は小さく、置いてあるのは宗教色の濃いものばかり。その中で、私は「インドの神々についての本」「ストーンパワー」「マントラ」に関する薄い本を手に取りました。これが、精神世界に対して自分の意志で初めてアプローチした瞬間だったと思います。
その後、リシケシの中心部から少し離れた静かなラクシュマンジュラという地区に移り、そこでの生活を続けました。何もすることがなかったので、本を読んだり、河原で筋トレをして過ごしていましたが、徐々にヨガやマントラ、瞑想に対して疑問を抱くようになっていきました。
マントラは本当に効力があるのか? ヨガには体操のような「ハタヨガ」だけでなく、善行をヨガとする「カーマヨガ」や瞑想を中心とするヨガもあることを知りました。瞑想とは一体何なのか? そういった疑問を持ち始め、答えを探すようになったのです。
その過程で、名もなき行者から瞑想や呼吸法、チャンティング、さらには古代の知恵を教わるようになりました。自然物を使った錬金術的な知恵や、ハーブの効力、水銀や石を使った伝統的な薬作りなど、多くのことを学びました。この時期に得た知識や経験が、現在の自分に強い影響を与えていることは間違いありません。
例えば、インドで学んだハーブの知識から、お香やオイルの効力に興味を持つようになり、それが美容の仕事に繋がるきっかけとなりました。
私にとって美容業は仕事の一部であり、それ以上の意味を持っています。ある価値観を大切にする人たちからは、「あなたは美容師に見えない」とか「メイクする人にも見えない」と言われることもありますが、それで構いません。私は、自分の持つ能力や知識を活かして、人々に楽しさや希望を手渡し、共に生きる時間を最大限に楽しみたいと考えています。
人生の中で、ワクワクしたり、笑ったり、怒ったり、悲しんだりする――そのダイナミックな瞬間を共に分かち合うことが、私にとっての生きがいです。
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