メイクアップは、イメージを表現する手段です。その意味では、ヘアセットもメイクアップの一部だと考えています。
しかし、ヘアカットは少し異なる立ち位置にあります。ファッション性を追求する際、ヘアスタイルをデザインする上で、シェイプの面白さやバランスだけを考えますが、通常の仕事では、お客様の顔立ちに合わせたり、癖毛を活かしたり、シェイプのバランスを希望に沿わせるために、基本セオリーをどこまで崩せるかを常に考えます。
顔の立体感、空間の取り方、表情、眉からのイメージ、そして髪の隙間から見える目の印象など、細かいディテールに集中し、その人の魅力を引き出すためにデザインをタイトにしていく――これはまるで彫刻に近い作業です。
そして、全く知らない人の髪を触るというこの行為にも、特別な意味があるのです。髪はその人の身体の一部であり、ヘアカットは生きた人の一部に刃物を当てて形を作り出していく行為です。そこには、単なる技術以上の何かがあると感じています。
髪はアンテナのような役割を持つという考え方があります。北米の先住民の中には、髪を長く保つことで聖なる力が宿ると信じる人々もいます。これは科学的に証明されたわけではありませんが、私はその考えに共感しています。
出雲大社など神社で舞を奉納する女性たちが、私の元へ髪を整えに来ることがあります。その時、私は非常に神聖な気持ちでヘアカットを行います。髪を切る行為が、ただのスタイル作りではなく、深い意味を持った特別な儀式のように感じられるのです。
ヘアカットとは、ただ外見を整えるだけでなく、時にはスピリチュアルな要素が絡む特別な仕事であると考えています。形は同じでも、その意味合いが変わる瞬間が存在するのです。